2009年7月過去ログ
- 2009年7月20日 「自然との共生」と「物質の循環」
- 2009年7月14日 木のエイジング その1
- 2009年7月 4日 Lucchiの展示会が始まりました
僕らの通常業務は、店舗の設計施工や、小さいものだとフックやスピーカー吊り用金物から、
大きいものだとサッシや骨組みなんかを製作して現場で取付ける金物工事などと、什器家具製作、
それに、現場で施行することが多いエイジング工事などが主な仕事です。
施主から直接依頼されるのと、デザイナーや設計者から依頼されるのと半々くらいなので、
金物工事だけで入る現場で、他の職人さんが施行しているエイジング工事を見ることがあります。
それぞれ施行の仕方は違うようですが、基本的に今ちまたで行われているエイジングの90%は、
塗装ですね。バブルの頃で言う特殊塗装というやつです。
経年劣化したような風合いに見せるために、色をつけていく施行方法です。
塗料やステインなどを塗ったり、紅茶等でしみをつけたり、ホコリなんかで汚したりします。
もちろん、叩き目やキズをつけたりもしますし、あらかじめ古材を使ったりもしますが....。
この施行方法は、熟練の域に達するのに時間がかかりますが、メリットは調色したりして、
フォーマットとして残せるので、ある程度何度でも同じ感じに仕上げることが出来るということです。
もちろん、ものに応じて、経験を生かして臨機応変に施行しなければ出来ませんが....。
デメリットは、経年劣化してきて、塗装が剥がれてきたり汚れたりすると、風合いは出てこないで、
ただ汚くなってるように見えてくるということです。
これに対するちゃんとした対処法をマスターしている職人さんは、現場の塗装屋さん、
家具などの塗装屋さんにしても、非常に数が少ないそうです。
僕らもこういった特殊塗装も施行します。
素材をエイジングできない場合もあるからです。
ガッツリメラ焼きされてたり、たっぷりオイルが塗ってあったりすることもあるんです。
僕らがお付き合いしているデザイナーや設計者は、指で数えられるほどですが、
皆さんが共通してるのは、アンティーク風だとか、エイジング風というのを
極力やりたくないという点です。
アンティークなら仕入れたものを使った方がいいということです。
ただ、すべてがアンティークというわけにもいかないですよね、お店の機能的な部分は、
新規に作るわけです、アンティークに合うように。
僕は、工房に入り浸って、作品作りに常時没頭しているとパンクしちゃうので、
内装現場に入って、いろんな職人さんたちと作業する時間が楽しみなんです。
僕が思いつかないようなかっこいい仕上げを考える人と、現場で話したりすると、
本当に面白いので、つい、機密仕上げ事項を細かく説明しちゃったりもしてしまいますが....。
でもそこはギヴアンドテイクの関係なんで、長く付き合ってもらえてるのかな、と思っています。
さて、エイジングをする素材は多岐に渡ります。木、鉄などの金属、ガラス、生地、紙等々。
今回はまず、素地の木の表面をエイジングした見本を紹介します。
コーヒーや紅茶などで、反応させる方法もありますが、木によって少し色味が出てきます。
シルバーグレーのバーンウッドをイメージして、今回は特製のエイジング水でのものです。
今回はナラ材を使いました。
エイジングを表現するのに適してる
ということと、好きだからです。
薬品を使ってやる方法もありますが、
なるべく使いません。
なぜなら、舐めたら危険だからです。
僕らが使うのは、基本的に水です。
もちろん天然素材をいくつか
混ぜていますが、そこはひとつ
企業秘密ということで、今回は
お許しを。
最初のは、エイジング水を
水で25%に薄めて塗ったものです。
厚い板が無垢で、
薄いのが突き板です。
次のは50%です。
塗ってるからといって塗装では
ありません。
塗った直後は色はつきません。
塗ってからしばらくして、このように
変化しています。
短時間で経年劣化させるわけです。
写真で見てわかるくらい、
オイルステインとは全く違います。
表面に色を付けるのではなく、
なんていうか、内側から
にじみ出させてる感じです。
これは100%のです。
50%とあんまり変わりがないように
見えますね。
これがデメリットです。
%である程度は予測できますが、
同じ100%のもので、同じ木に
塗っても、違う色になってしまいます。
季節や天気でも変わります。
すなわち、正確なフォーマットを
作れないんです。僕らは全部
一点もののつもりで考えてますが。
これは100%のを、水で
ブラッシングしたものです。
これが一番、雨ざらしにした
状態に近いと思います。
無垢と突板の違いがけっこう
ありますね。
ダークブラウンの顔料で
一度染めたものを、
ブラッシングして、
拭き取ったものです。
エイジング水は塗ってません。
これは、普通のクリア仕上げ
より、シックになります。
エイジングエイジングしてない
のもけっこういいです。
この見本は全部ワックスなどを
塗ってないものです。
塗ると、濡れたような感じで、
実際にはもっと暗い、深い
仕上がりになります。
一番上に見えるのが素地です。
上のに、エイジング水を
25%にうすめて塗ったものです。
最初のほうのものより、
茶色の色味が出ています。
色をつけたいけど、
少し風合いを味付けしたい時に
使うといい分量のものです。
50%です。
クラッキングを入れる仕上げ
のときに、下地として
よく使います。
下地に色を塗るのが一般的
ですが、そのまた下地が、
こんな感じで錆びていると
最後にクラッキングした時
風合いが全然違います。
100%です。
エイジング水の濃度が
高ければ高いほど、木の色が
暗く濃くなっています。
ダークブラウンに染められていた
家具が、経年劣化していくと
表面のロウにクラックが入ったり
するくらいですが、それがまた
さらに進むと、部分的にこんな
色になってたりします。
アンティークの家具や、古材を
加工しなければいけないときに、
切り口などに塗ると有効です。
また、フローリングも、
エイジング加工されている
ものを加工して、素地が見えてきて
しまった部分に使うと有効です。
これはウォルナットです。
素地が濃い木の場合は、
難しいです。上部右が無垢材の
エイジングしたほうで、
左は素地のままのものです。
下は突板で、右から100%、
50%、25%、素地です。
突板の方が変化がわかり易いのは、
ベニヤの影響によるものです。
チークです。
チークは時間がかかります。
下がエイジング、上が素地です。
これは1日経過のものです。
もう少し工程を繰り返していくと、
グレーが出てきます。
最後に、ツガです。
何年も経過してるように
見えます。
ただ、この木は家具には
使えませんね。
内装材として使うか、棚板か、
といったところでしょうか。
今回のその1はこんなところです。
「だから、そのエイジング水って何?」「そのレシピだけが知りたいのに!」という人けっこう多そうですね。
けれど、すぐに出来るものでもないんです。作るのにものすごい時間がかかります。
(今回使った純度の濃いもので、7年くらい経ってます。)
その7年もののを、少し使って、水を足して新しいものを株分けして作っていきます。
そして、6,5,4,3,2年ものと分けていくわけです。
ですから、7年ものと、2年ものでは、深みが違って出るんですが、同じ感じにできちゃうこともあるんです。
紅茶とかではありません。コーヒーは使いますが。。。
エイジングとうたっているところに、頼んでみたのはいいけれど、
出来上がってくるとイメージと違っていて、なんとも言えないような感じになっていた、
という話をよく聞きます。
おそらくそれは、エイジング=塗装という感覚を持っている施工側と、
=経年劣化という感覚の依頼者の場合に多く起こる問題点なんだと思います。
そういう場合には、今回のような工程を初めに挟んでおけば、特殊塗装の仕上げだとしても
かなり違ってくると思います。
さて、この仕上げのデメリットは、先に記述したとおり、フォーマットが作れない、ということですが、
メリットは、それぞれの仕上げに、それぞれの風合いが出るというのと、
ちゃんと経年劣化させてるので、剥がれても汚れても、風合いとなって積み重ねられることです。
でも、全部が全部ではいけません。何事もバランスが大切です。
新しいものと古いものそれぞれのいい所を出すために、こういったエイジングを使いたいですね。
昨日、白金のGASA*にてLucchiと豊永侑希さんの「pressed - flowers」展が始まりました。
新しくなったGASA*の1階には、この展示会のコンセプト通りの、
「植物収集家の部屋」のような空間が広がっています。
豊永さんの絵画と、Lucchiのアクセサリーが、植物収集家の集めたいろいろなものたちと一緒に
所狭しとディスプレイされています。
時間をかけて、ゆっくり見るといいと思います。